
先日相続手続きの中で、とても珍しい手続きがあったので、記録として残しておきたいと思います。
※個人情報の特定につながるような情報や、個別の事情等は記載しておりません。
【ケース】
抵当権の債務者が亡くなり相続が発生しました。法定相続人が2名いる為、今後はその2名を連帯債務者とするという登記です。
珍しいケースである点は2つ
①根抵当権ではよくある債務者の相続ですが、「抵当権の」債務者の相続手続き、というのがあまりありません(住宅ローン等は、団信で消える為、相続手続きと同時に抹消してしまいます)。
②相続する債務者を特定の一人とせずに、連帯債務者とするという点が、さらにない論点です
同業者で経験のある先生を探しましたが、長年キャリアのある先生もやったことがないという事で、一から調べて登記官に要相談となりました。
不動産の登記というのは、法律の根拠がないと申請できないので、通常ないケースの場合は、その根拠をどうするか悩むケースがよくあります。
このケースの論点が以下の通りです。
抵当権の債務は分割債務
法定相続人が2名いる場合は、相続の時に遡って債務を法定相続人の数で割った2分の1ずつを、自動的に相続します。遺産分割協議で違う割合で債務を相続する、かつその内容に債権者が承諾すれば、その内容で登記はできますが、そういった協議にしていない場合は、分割債務を前提に考える必要があります。
また、連帯債務とは、複数の債務者が連帯して、全額の債務を負うという事です。
例)相続人がABの2名、抵当権の債務が1000万円の場合
Aは債務の2分の1である500万円、Bも残りの債務2分の1である500万円を相続します。
このケースでいくと、Aが負担する500万円についてはBも債務者になる必要があり、逆もしかりです。
何らかの方法で、1000万円全体に対しABが連帯債務者になるようにしなければいけません。
その手続きの方法としては、2通りあると考えられます。
パターン1
①債務者の相続登記(分割債務でそれぞれ2分の1ずつの債務を負担)
登記上の表記:債務者A 債務者B
②Bの債務をAが免責的債務引受(Aだけが債務者になります)
登記上の表記:債務者A
③Aの債務をBが併存的債務引受(Bが連帯債務者として加わる:これだけだとよくあるパターンです)
登記上の表記:連帯債務者AB
パターン2
①「年月日相続」債務者の相続登記(分割債務でそれぞれ2分の1ずつの債務を負担)
登記上の表記:債務者A 債務者B
①「年月日AはBのBはAの債務を併存的引受」(それぞれに相手の負担する債務を連帯して負担)
登記上の表記:連帯債務AB
今回は、実態に近いと思われるパターン2で進めることとし、内容について登記官に相談したところ、それで問題ないとのこと。金融機関にもその内容で確認をとりました。
金融機関の法務部で内容を精査ということで、少し時間はかかりましたが、その流れで倫理がおりたので、次は書類作成です。
注意点としては、債務引受には債権者の同意がいるという事。法定相続された分については不要ですが、併存的債務引受に関しては、債権者の同意が効力要件なので、記載が必要です。
尚、登記原因証明情報を作成できたので、金融機関の印鑑は不要でしたが、金融機関の変更契約書で登記を申請する場合は、差し入れ形式になっていることがほとんどですので、登記官及び担当者に確認が必要です。
尚、これまで連帯債務の場合は「重畳的債務引受」で登記を申請していましたが、民法改正により「併存的債務引受」が文言化されました。言葉は違いますが、法律上意味は同一です。法務局では原則「併存的」で記載をしており、希望された場合は重畳的で記載するとのことでした。
文章にすると短いですが、それぞれの分割された債務を、他の当事者が併存的債務引受することで、全体債務について2名が連帯債務者になる、というのは、理屈では理解して進めたものの、完了までは少し緊張しました。
